この度、新宿区福祉部子ども家庭課が、「学童クラブの利用調整」の導入を計画していることが明らかになりました。これは受入れ目安をオーバーした学童クラブの児童に、他の学童クラブへ移ることを要請、これを受け入れない児童は「待機」させるというものです。
これまで新宿区の学童クラブは、定員をオーバーしてもすべての申込み児童を受け入れてきました。これは遠方の学童クラブや、友達のいない学童クラブに調整 されてしまい、結局学童クラブに行きたがらなくなってしまった児童、つまり「結果的なかぎっ子」をつくらないという、新宿区の学童クラブ事業の優れた点で した。
この度の「受入れ調整」制度は、この優れた点を破棄し、「かぎっ子が出るのはやむなし」という、方針の反転を意味するものです。これはもちろん、新宿区が標榜している「子育てしやすい町」「こどもに優しい町」というモットーに反するものです。
連絡協議会としては、この施策を到底受け入れることはできず、新宿区議会で十分審議していただこうと陳情書を提出しました。
新宿区議会 議長
小畑 通夫 殿
学童クラブの利用調整計画に関する陳情
新宿区の学童クラブについて、新宿区福祉部子ども家庭課が、平成18年度から導入を計画している学童クラブの利用調整の実施について、議会で慎重に議論を していただきたく、ここに陳情させていただきます。なお、本件に関して詳細な説明や意見の開陳が必要な場合は、よろこんで議会に出向させていただきますの でご連絡いただけますよう、お願い申し上げます。
陳情の趣旨
● 福祉部子ども家庭課が平成18年度から導入を予定している、学童クラブ利用調整計画の撤廃を要望します。
● 学童クラブの定員オーバー問題に関しては、利用者の声を聞きながら対策を構築していくことを要望します。
陳情の理由
● 定員オーバーを受け入れてきた新宿区の学童クラブ
新宿区には現在22の公設学童クラブがあり、これらは基本的に児童館に併設されています。それぞれの学童クラブは施設のスペース状況に合わせて定員が定め られています。しかし、ここ二十数年にわたって新宿区の学童クラブは、定員を超える申し込みをすべて受け入れてきました。
これは、定員オーバー によって希望の学童クラブを利用できなくなった児童が行き場を無くし、「かぎっ子」化することを避けるためであり、その結果、新宿区の学童クラブは他区に 例を見ない、思いやりのある先進的な児童行政を成し遂げてきた、と地域で子育てをする保護者として理解しています。
● 新宿区が導入を計画している学童クラブの利用調整とは
ところが、平成16年度実施の区立小学校の選択制度により、小学校の規模の差が広がり、これに伴って学童クラブも人数の集中するクラブと、しないクラブの 差が顕著になりました。高田馬場第二学童クラブは定員70名へ97人が在籍、一方、西新宿学童クラブは定員40名へ16名の在籍となっています。
このような状況を踏まえ、新宿区福祉部子ども家庭課が平成18年度から導入を計画している学童クラブの利用調整とは、①「各学童クラブへ『定員』とは別に 『受入れ目安』という概念を適用する」、②「受入れ目安を越える申込みがあった学童クラブでは、これをオーバーした児童へ近隣他館を利用するように協力依 頼する」、③「協力依頼を受け入れない児童は、これを待機させる」というものです。
● 結果として「かぎっ子」を生み出す施策
利用調整をしている児童施設として保育園があります。保育園では保護者が送り迎えをするために、やや遠方の保育園に調整されたとしても、児童には影響がな いと言えるでしょう。ところが、学童クラブでは、児童が自分で自宅と小学校と学童クラブの間を移動します。保護者は学童クラブを選択するとき、自宅・小学 校・学童クラブの位置や距離、友達関係を踏まえて検討するわけです。
このように学童クラブの児童は、距離的にも、精神的にも、自宅・小 学校・学童クラブという関係の中で生活しているのです。これを尊重してあげなくては、児童は安定した放課後生活が過ごせなくなります。ところが受入れ調整 の結果、遠方の学童クラブに通うことになってしまった場合、児童は毎日、長距離の移動を余儀なくされます。さらに、そこは同じ小学校の友達がいない学童ク ラブでもあります。
行きにくい学童クラブに通うことになった児童は、「学童クラブに行きたくない」と言い出す可能性が大きくなります。その結 果、ある児童は放課後を大人に保護されない環境で過ごす、「かぎっ子」になります。学童クラブの利用調整は、このように結果的に「かぎっ子」を生み出しや すくする施策であるということが言えます。
● 柔軟性のある児童館内学童クラブ
一方で大幅な定員オーバーというのも、緊急に対策が必要な問題であることは明らかです。このことを考えるときに、「学童クラブの定員」と「児童館の定員」は同じではない、ということをまず理解しておく必要があります。
学童クラブ職員の人数という点から考えますと、これまで定員オーバーが20名を越えるごとに、1名追加配置することで対応してきました。またスペースの点 では、学童クラブは児童館の中に併設されており、児童館には一般の児童が学童クラブ児と共に遊べるスペースが大きくあります。このため、学童クラブのス ペースは基本的にかなりの柔軟性を持っているということが言えます。
● 小学校自由選択制に対処してこなかったツケ
福祉部子ども家庭課が指摘している大幅な定員オーバーによる問題点として、「児童館が学童クラブのための施設になってしまい、一般児が来にくくなってしま う」、「学童クラブの運営が、けがや事故防止に重点を置いた運営になってしまう」、「一般的に40人といわれている集団としての適正規模を超えてしまい、 個々の状況の把握や集団としてのまとまりをつくるのに支障がある」があります。いずれももっともな指摘です。しかし、これに対処するために「利用調整」と いう「かぎっ子を生み出しやすくする施策」を採用してもいいのでしょうか。
定員オーバー問題に対する最も基本的な対策は、小学校の状況 を把握し、学童クラブの新設も含め、適切に施設を配置することです。小学校の自由選択制を前に、状況予測が不十分で、対策が後手にまわったということを、 福祉部子ども家庭課は、まず認めるべきです。その不十分さから招いたものを「かぎっ子を生み出しやすくする施策」によって、児童を大人の保護から放り出す ことでツケを回すことは許されません。
● 利用者の望まない定員オーバー対策
定員オーバーという状況によって 不便を受けているのは、児童やその保護者です。では、定員オーバーが最も顕著である、高田馬場第二学童クラブの現役保護者は、そのことをどう思っているの でしょうか。「確かに定員オーバーは大きな問題で、区役所に対処をお願いしてきたが、待機児童を出すことになるこのやり方は受け入れることはできない」と の意見で一致していると聞いています。
おそらく区役所にとって待機児とは、利用申請を出して待機している児童のことを言うのであって、 利用辞退した児童は含まれないのでしょう。しかし、私たち保護者にとっては、学童クラブで安全に放課後を過ごして欲しいのに「行きたくなくなった」「行き にくいので行かなくなった」と言い出し、結果として利用辞退を出すことになってしまった児童も待機児なのです。
学童クラブに行かなくなり、家に帰っても保護者がいない児童が増えると環境が荒みます。
学童クラブの保護者は、過密な状況や先生の目が行き届かないという不利益を考えても、そんな結果的な待機児を生み出す施策に反対と言っているのです。それ は自分の子どもだけがよければいいのではなく、すべての保護が必要な児童に、それが適切に与えられているという健全な環境が、自分の子育てにも重要だと認 識していまるからです。
● 大幅な定員オーバーに、これまでどう対応して来たか
また、その他の保護者の中には「児童館内に学童クラブ室を別に作ったらどうか」、「小学校内学童クラブを新設したらどうか」などの意見もあります。
実 際に、これまで定員オーバー館では、施設の改修により学童クラブスペースを広げて対応してきました。富久学童クラブの定員オーバー問題に対しては、富久小 学校内学童クラブの新設が一定の効果を上げています。私たちは説明を受けていませんが、平成18年度から戸山小学校内に学童クラブが新設されるようです。 これは百人町学童クラブの定員オーバーに対応したものだと思われます。
このように、待機児童を出してこなかった、という誇るべき優れた新宿区の保育行政を撤回して、間違った方向へ第一歩を踏み出す前に、やるべきことはいくらでもあるのではないでしょうか。
● 実際に受入れ調整が行われた場合の問題点:高額な民間学童クラブ
高田馬場第二学童クラブは平成18年度97名の申込みが予測され、これに対して受入れ目安は80名です。つまり17名の児童が利用調整の対象になります。その17名は、具体的にどこへ行くように求められるのでしょうか。
近隣の学童クラブとしては、民間学童クラブの「早稲田フロンティアキッズクラブ」があります。ここの募集要項によりますと、利用料金が6,300円、入会 金10,500円、施設管理費(年間)10,500円、おやつ代(月間)2,625円とあります。公設公営である高田馬場第二学童クラブの利用料 6,000円(月間・おやつ代含む)と比べると、価格競争力がないことは明らかです。また、これは学童クラブだけの施設ですから、一般児である学校の友達 は来られません。平成17年度に高田馬場第二学童クラブからこちらへ移った児童は、一人もいませんでした。平成17年度の在籍児童は30名の受け入れ枠に 3〜4名程度だと聞いています。
利用調整によって高田馬場第二学童クラブの17名の児童は、これだけの料金を負担し、「早稲田フロン ティアキッズクラブ」を利用するように求められることになります。しかし、子ども家庭課の「平成18年度学童クラブの利用調整について」というペーパーに は、これらの料金格差に関する指摘や説明はありません。
また、行政が特定の民間企業へ、実質上利用者を斡旋・誘導することには問題があると考えます。
● 実際に受入れ調整が行われた場合の問題点:受け入れ先学童クラブの定員オーバー
それでは料金の問題で「早稲田フロンティアキッズクラブ」が利用できない家庭は、どこを利用するのでしょうか。子ども家庭課によると、早稲田南町学童クラブがもうひとつの調整先とのことです。
平成16年度に戸塚第一小学校から早稲田南町学童クラブへ通ってきていた児童が数名いました。しかし、1ヶ月以内に全員が利用辞退し、高田馬場第二学童クラブへ移って行きました。いずれも通うには距離がありすぎることが分かったとのことです。
さらに早稲田南町学童クラブには現在、定員30名を17名越える47名が在籍しており、受入れ目安の50名に迫っています。ここへ高田馬場第二学童クラブ の調整を受け入れれば、早稲田南町学童クラブも受入れ調整の対象になります。すると玉突き的に早稲田南町の数名が、榎町学童クラブへ移ることを求められる ことになります。
高田馬場第二からの児童は遠距離の行き来を強いられ、早稲田南町の児童は慣れ親しんだ学童クラブを移ることを余儀なくされま す。前記したように、このことが児童に学童クラブを精神的に遠ざけることになり、結果的に「かぎっ子を作ってしまう」ことになることが憂慮されています。
● 低学年に不利なポイント制、話し合いに基づく対策、保育園と同じく待機児を出さない決意
子ども家庭課によると、利用調整の対象児童を選定するに当たっては、ポイント制を採用、これには学年調整指数を撤廃するとのことです。これまで学童クラブ は、低学年ほど利用の必要性が高いとされていました。これを撤廃し、1年生でも待機児となるのはやむなしとの方向性を打ち出したもので、これは保護者の感 覚とは全く相容れないものです。
確かに、これまでにも近隣の学童クラブへの調整が行われたことがありました。しかし、その場合も利用者 との十分な話し合いと、納得に基づいて行われたものでした。今回の高田馬場第二学童クラブ父母会への通告のように、あたかも強権を発動するようなやり方 は、「地域との協働」や「子育てに優しい街」を標榜する新宿区としてはあってはならないことではないでしょうか。
中山区長は一貫して、保育園には待機児を出さないことを主張してきました。しかし、学童クラブに関しては新たに待機児を出す可能性のある施策を福祉部へ指示したのでしょうか。
近年の子どもをめぐる事件を見れば、保護が必要な児童の年齢は高くなっています。少子化であっても学童クラブ需要が増加していることから、このことが一般 的な保護者の認識であることは明らかです。保護が必要なすべての児童を受け入れる施策は、維持ないしは強化すべきものであって、方針転換したり撤廃したり するべきものではありません。新宿区は、保育園と同じように学童クラブにも待機児ないしは「結果的なかぎっ子」を出さない決意を持っていただきたいと思い ます。
● 新宿・学童クラブ行政の誇りは、待機児童を出さなかったこと
学童クラブの利用家庭は基本的に共働き ないしはシングルであり、昼間家にいないのが普通です。そのような家庭にとって、子どもを安心して任すことが出来て、子どもが安全に放課後を過ごすことが 出来る学童クラブは、なくてはならないものです。一方で、学童クラブの児童は、専業主婦のいる家庭の子ども、つまり一般の子どもの自由な生活にあこがれて おり、ちょっとした心の揺れで「学童クラブへ行きたくない」と言い出すものです。学童クラブの先生方は、そんな子どもの気持ちを汲み取って、楽しく安心し て毎日の放課後生活を過ごせるように、日々心を砕いてくれていることを、私たち保護者はよく理解しています。
新宿区の学童クラブの歴史 の中で、長い間、待機児を出さなかったことは新宿区の誇るべき実績であり、新宿区の学童クラブが、子どもを安心して任せることができるものであることの証 でもありました。新宿区の児童行政がこれまで通り、子どもの気持ちに寄り添い、子どもの安全を第一に考えていただき、「結果的に待機児童・かぎっ子を作り 出してしまう」受入れ調整という施策を白紙に戻し、大幅な定員オーバーに対する根本的な対策を、利用者の声を聞くことによって再構築していくことを切に期 待しています。
なによりも、大幅な定員オーバーという不利益を日々受けている高田馬場第二学童クラブをはじめとする、その他の学童クラ ブの保護者でさえ、自分たちの不利益はさておき、新宿区の子どもたちから待機児が出てしまう可能性に深く憂慮し、この施策の実施に反対しているという事実 を忘れないでください。
(以上)
平成17年11月28日
新宿区学童保育連絡協議会
会長 松永聡美